『炎の中の彼女(後編)』
「ここだな、火事が起こったところは......」
そう言ってオレが前を見ると、すぐそこにはこれでもかというくらいの量の煙が立ち込めていた。
目を細めてよく見てみるが、煙がすごすぎて中を確認することはできない。
「くー、流石に何も見えないな......」
「無理に飛び込むのも危険だ。ここは消防隊に任せて俺たちはここから離れよう」
「そう......だな」
そう言ってその場を離れようとした時、背後からの熱気に気がつきオレは咄嗟に身を翻した。
だが、かわした先にいたダンディに見事に命中してしまった。
「あちぃ!!!」
「だ、大丈夫かダンディ!」
「こんな事をするのは.....オレは1人しか知らない......!!」
直後後ろを振り向くと、煙の中から誰かが歩いてくるのが見えた。
次第にその足音は段々と大きくなっていき、そして......煙の中から懐かしい影が現れた。
「あっ.......」
っと思わず声をあげる。
そこにいたのは......
「やっぱりティア......!!」
目の前に姿を現したのはかつてオレたちの仲間だったティアだった。
黄色のバンドに星型のピン?をつけたその姿は何一つ昔と変わらなかった。
違う点があるとすれば......その目が殺意に満ちていたことだ。
「やっと会えたな、ティア!だけどこれはどういう......」
と言いかけた時、
ポウッ
という音とともに何かが破裂したような音が聞こえた。
嫌な予感がして見てみると、オレの後ろにいたダンディが案の定真っ黒になっていた。
「おいティア!いつもの冗談にしてはやりすぎだぞ!!」
「.......」
無反応.....か。
こうなったら戦うしかないと覚悟を決めた矢先、とんでもないスピードで熱気が近いてくるのを感じた。
かわそうとしたが一瞬反応が遅かったせいで、火の玉よりも大きい火の矢のような熱気は目と鼻の先まで接近していた。
やばい、これはかわしきれない。
そう思った途端、目の前まで近いていた熱気は一瞬にして消え去った。
「......え?おま.......」
「よう!大丈夫か、クロム」
「大丈夫ですか、クロムさん⁈」
「ユーシャ!それにミナノも!」
なんでここにいるのかは分からないけど、とにかく助かった。危うく真っ黒になるところだったぜ......
「いくぞクロム!変身だ!」
「おう!」
〝ライトニング!〟
〝ウォーター!〟
『変身!!』
「さあ......お前の罪を数えな!」
「なっ......?!」
驚きを隠せないティアの様子を確認しつつ、オレはティアへと突っ込んだ。
オレが突っ込んで来ることに気がついたティアは咄嗟に構える。
それを見たオレは用心深く真っ直ぐに走っていく。
するとティアは、案の定オレに向かってフレイムランスを連発してきた。
「へ、直線攻撃のフレイムランスなら見ればかわせる......」
と言った瞬間、オレを覆ったとんでもない熱さで「うおぁ!」と叫びながらオレは後方に吹っ飛ばされた。
ヒリヒリと焼けるような痛みに耐えながら自分の手を見てみると、その手は真っ黒になっていた。
「なっ、なんだよこれ......」
「(あいつ一体今何を.....⁈)」
「分からない。でもフレイムランスには触れていなかった」
「(......というと?)」
「オレも知らない新技か何かだ。しかも高威力のな.....」
そんな会話をユーシャとしていると、いつの間にかティアがこちらに向かって急接近していた。
「(とりあえずは何が起こったかを確認するぞ!)」
「分かった!」
オレはWのSメモリをスロットから取り出し、腰の空いてるスロットに差し込んだ。
〝ウォーター!マキシマムドライブ!〟
「おらぁぁ!喰らいな、ティア‼︎」
「.......」
ドゴォ!
という音と共にオレはティアに突進した。
これで決まっ......
「......なっ!当たってな.....」
「ふっ」
直後さっき味わったばかりの感覚がオレを襲う。
あまりの熱さに耐え切れなくなったオレは地面に倒れこんだ。
「クロムさん!ユーシャさん!」
「まて......行くなミナノ...」
「でもこのままじゃ!」
「お前が行っても黒焦げになるだけだ.....」
「じゃあどうするんですか、ダンディさん!!」
「.......俺が行く」
くっそぉ.....
いつの間にあんな新技会得しやがって.......
最初は分からなかったが、さっきの2撃目で技の正体は分かった。
あの技は対象の足元から火の渦を作り出し、一気に放出する技だ......
足元からの攻撃だから気づかなかったってわけか.......だけどこれじゃ近づくこともままならないぜ......
どっ、どうす......
「クロム!!」
「⁈」
「ダンディ⁉︎」
「こいつを使え!!」
そう言ってダンディが何かを投げてきたので、すかさずキャッチする。
飛んできたものを見ると、オレの手には“S”と書かれた濃い緑色のSメモリが握られていた。
「おいダンディ......これって.....?」
「そいつは俺のSメモリだ!それを使って戦え!!」
「えっ⁈でもこれってお前の......」
「そう思うんなら無傷で返してくれよ!」
ダンディは「ふっ」と軽く笑いながらそう言い返した。
まったく......
こういう時は戦士なんだな.......
オレは覚悟を決めて言った。
「へへ、どうなっても知らねえぜ!」
「いーから好きなようにやってみな!」
「おう!」
オレは左のスロットからWのメモリを抜き取り、代わりにさっき受け取ったSのメモリを差し込んだ。
するとオレの体の色がみるみると変化していき、元々のピンク色から緑色へと変化していく。
「お、なんだなんだ?!」
自分の体を見下ろしてみると、その体は全身真緑になっており、右手にはランチャー、左手には剣が握られていた。
「おおお......なんだかよく分からないけど、ダンディみたくなっちまったぜ......!!」
「(感心するのは後だ!くるぞ!!)」
「お、おう!」
そう返事をして前方を見ると、ティアがすごい勢いで走ってきていた。
すかさずオレは右手に持っていたランチャーをティアに向かって撃ち出す。
幾重にも響く爆発音と共に、前方は火の海へと化していく。
これでもかと撃っていると、いつの間にかランチャーは撃ち止めになっていた。
「やったか⁈」
「(そういう時は大抵やってないけど......出て来ないってことはチャンスだ!)」
「おっしゃー!一気に片を付けるぜ!!」
そう言いながらSのメモリに手をかけたとき、目の前からティアが撃ったであろう火の玉が飛んでくるのが見えた。
オレは考えるよりも先に、左手に持っていた剣を火の玉に向かって投げる。
するとボシュッという音と共に火の玉はかき消された。
直後オレが前を見ると、ボロボロになりながらも必死に抵抗したであろうティアがこちらを睨みつけていた。
ごめんな、ティア.......
だけど......少しの間さよならだ.......!!
ガコン!
という音が鳴り響くと同時に、オレは声を上げて叫んだ。
〝ソルジャー!マキシマムドライブ!〟
「波動乱撃!!!!」
直後鳴り響く爆発音を聞きながら、オレは......思った。
なんでだよ、ティア......
続く。
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