色のない世界 第1話 「奪われた色」


 ここはどこだろう。
 見覚えのない景色に、首を回す。だけど、カメラのピントが合っていないかのように、ぼやけてはっきりとは見えない。
 でも、辺り一面モノクロな事は分かる。

 異様な光景にぼーっとした頭が追いつかず手だけを伸ばしてみると、何か生温かいものに指先が触れた。
 液体?だけど、それにも色がない。感触はとてもさらっとしているけど、この生理的嫌悪感を私は知っている。これは...
「血だ......」
 気がつくと、私は知らない女の子を抱きかかえていた。顔は見えないけど、何故だか涙が頬をつたう。

 私はこの子を知っている。
 でも、名前が思い出せない。あなたは.........


 バン!!!
「......もう朝かぁ」
 ジリリリリとうるさく鳴り響く目覚まし時計を殴って止めると、目をこすりながらふあーっと大きく伸びをする。
 「あと少し眠っていたい...眠い......」
 そう言ってもう一度寝ようとするが、2度目のアラーム音に邪魔をされ仕方なく布団から抜け出す。
 やれやれ、どうして布団というのはこう、ここまで人を引き入れようとするのかな。人類が考え出した悪魔の兵器だよね、これ。
 そんな事を考えつつも渋々と起き上がると、目に飛び込んできた光景にギョッとする。
「え、どういうこと...?」
 あたり一面真っ白...いや、白黒になってる......!
「私、目がおかしくなったのかな」
 そう思ってゴシゴシと目をこすりもう一度開いて見るけど、やっぱり状況は変わらない。
「いつも着てるお気に入りの服まで白黒だよ...」
 参ったね、これ。どういうことなんだろ...
 そうだ、外を確認してみよう。もしかしたら家の中だけ誰かのイタズラで白黒になってるだけかもしれないし...!
 そう淡い期待をして外に飛び出したのがバカだった。疑心だったものが確信に変わってしまう。
「そんな......」
 目の前に広がった外の景色は、一夜にして色のない世界へと変貌していた...


「あー...また負けた!!」
「へへ、悪いな桜衣。また俺の勝ちだ」
 ケラケラと笑う目の前の男の子...秋風結祐にまたもゲームで負けて「くっそー!!」と叫ぶ。
「全く、桜衣は本当にゲームをやると弱いな」
「違う違う。結祐が強すぎるんだよ!」
「そうか?ま、センスの違いかな〜」
「うう...その妙な自身がムカつく......」
「まあそう言うなって。今度飯おごってやるからさ」
「え、本当?!」
「ああ。ただし、お前が俺にゲームで勝ったらの話だけどなー」
「ぬうううう!!!!」
 今度は腹を抱えて笑う結祐に、自然とふくれっ面になる。もう、この世界が変わってもこいつだけは変わらないんだから...

 そう、あの色が抜け落ちた大事件から、一ヶ月が過ぎた。あれから多くの町や村でパニックがあったものの、今はどうにか落ち着いてきた感じだ。
 とはいえ、私の住む自然だらけの小さな村である、そよかぜ村は大して影響がなかったものの、私が今通っている学校があるこの町コズミックシティはそうもいかなかった。
 様々な技術が飛び交うこの町では、色がなくなるというのはかなりのダメージになったようで対策を施行するのにはかなり苦労したみたい。
 とはいえ流石は大都会。問題は早急に解決して、大人達はもう皆んな仕事をしているっていうんだから驚きだよ。
 そうそう、驚きといえばもう一点...厄介なのが......
「そういえば、今朝もまたニュースになってたね」
「ああ...あの化け物たちの事か。また犠牲者が出たんだってな。ほんと、嫌になるぜ...」
 結祐はうんざりした顔で窓の外に向けて頬杖をつく。
 そう、色がこの世界から消えた翌日から、真っ白な化け物が湧き出るようになった。姿形は様々で、全長10m超えもいれば犬くらいのサイズのものもいる。
 そいつらは手段こそ違えど共通して人々から色を奪い取るという行為を始めた。
 色を襲われた人間はすぐさま病院に運ばれたけど、医師によると化け物から色を抜かれた人間は、意識はあっても体を全く動かす事ができない状態...まさしく植物人間のような状態にされてしまっているとのことだ。
 この化け物達の行為を重く見た各町や国は早急に軍を引き連れて対抗。でも...どんな兵器であっても化け物たちにダメージを与える事はできても倒す事は出来なかった。
 こうして今日までの一ヶ月間、私達人類はやつらに怯えながら暮らさなくてはいけなくなったんだよね。ほんと、私もいつ襲われるか...
「あー、そろそろ授業始まるな。だりい...」
 そう呟いて結祐はのそのそと自分の席に戻っていく。
「ま、襲われたらその時はその時で考えればいいよね」
 ...なんて独り言を言って次の授業の準備を始めた。


 放課後。
 結祐と別れると、見慣れた帰宅路をとぼとぼと歩く。
 横断歩道に差し掛かり記号表記になった信号機の前で表示が変わるのを待ちながら大きく伸びをする。
 今日も一日疲れたなぁー。帰ったら何をしよう。この前結祐に勧められたゲームはやっとクリアしたし、ご飯...は昨日の残りがあるから作らなくていいし......
「こういう時、家に一人きりってちょっと寂しいなぁ...」
 こればっかりは2年経った今でも全然慣れない。学校がなかったらどうしてたんだろ、自分。
「あ、丸だ」
 信号の表記がバツから丸に変わっているのに気がついて、慌てて渡る。
 そうだ!この際だから結祐の家にでも行って驚かせようかな。今来た道を引き返すのは面倒だけど、暇するよりいいもんね。
 踵を返して渡ったばかりの歩道を走り抜けようとした時だった。
 突然キィィィとタイヤを滑らせながらトラックが突っ込んできたかと思うと、信号機にド派手な音と共に衝突した。
「え...」
 な...に......?何が起こったの?
「きゃあああああ!!!!」
「......!!」
 今度は女の子の悲鳴...?!
 何がなんだか分からないけど、と...とにかく!女の子の声がした方へ行ってみよう...!
 炎上するトラックを近くにいた大人達に任せて、私は声の元へと走りだす。
 どこ?どこにいるの...?
 辺りを見回しながら右へ左へと人混みの中を突っ走る。
 この人達、どうして凄く騒ついているんだろう。さっきのトラックのせい?いや、なんだか違う気がする。
「嫌な予感がするね...」
 人混みを抜けて狭い住宅路に入り込むと、ドシン...ドシンと地響きが鳴り響く。
「こっちか!」
 っと角を曲がると、視界に映ったものに目を丸くする。嘘...でしょ。こ、これって......
 角を曲がった先にいたのは、尻餅をついて座り込んでいる女の子と、巨大な口をあんぐりと開けた4mほどの人型の化け物...だった。

 どどど、どうしよう。どうすればいい?!えっと、えっと、えっっと!!!
「あ、危ない!!!」
 脳の処理が追いつくよりも先に、体が動いた。女の子を抱き抱えてごろっと転がる。
 恐る恐る目を開いてみると、ほんの数秒前まで女の子がいた場所には小さなクレーターができていた。
 あ、あんなの...冗談じゃないよ......!すぐにでも逃げないと、どうなるか分かったもんじゃない!!
「き、君!怖いかもしれないけど、走れる?」
「う、うん...」
「よし、それじゃあ走って逃げるよ...!」
 不安な顔を浮かべる女の子を立たせると、後ろは振り返らずに細い道を走り出す。
 広い大通りならともかく、幸いにもここは住宅街!このまま複雑な道を利用すれば撒ける...!
 女の子の手を引き数度道を曲がる。よし、このまま行けば大丈夫そう...?!
 だと思ったけど、現実はそんなに甘くなかった。
「か、河川敷......」
 い、行き過ぎた...まさか河川敷に出ちゃうなんて......!
 はあはあ、と息を切らす女の子。
 この様子じゃあ、もう走るのは無理そう...か。
 全く、その時はその時で考えればいいなんて言ったけど...実際は何も考えられないね!!
「ご、ごめんなさい。私が...私がいるから......」
 女の子がぐすっ、ぐすっと涙を零すのを見て、君のせいじゃないよ。と必死に慰める。
 でもだめだ、泣き止んでくれない。どうしたら......

 次第に近づいてくる地響きの音と同調して心臓の鼓動が早くなってくる。
 振り返ると、見つけたと言わんばかりにさっきの化け物がこちらとの距離を縮めてゆく。
 汗がふつふつと溢れ出して、息が荒くなる。
 怖い、怖いよ。あんなのどうすればいいのか分からないよ......
 だけど、このままじゃ私だけじゃない。後ろの女の子も色を取られてしまう。そんなの...
「.........嫌だ」
 そうだ、私が守らなくて誰がこの子を守るんだ。今、この子を守れるのは...涙を止められるのは私しかいないんだ。それなら...怖くったくて、ここは頑張るしかない!!
 女の子から離れ一歩、また一歩と前に進む。やがてあと数歩で触れる距離まで近づくと、思い切り叫ぶ。
「気合いがあれば、大体なんとかなるんだ!!さあ、こい化け物!私を狙え!!!!」
 叫び終わるやいなや、振りかざされた右手をギリギリのところで避ける。
 どうやって色を奪うのかは知らないけど、捕まったらきっと最後だ。なんとか攻撃を避け続けて、あの子を逃がさないと...!
 次々に迫り来る拳を横にそれながらバックステップでかわしていく。いつ当たってしまうのかヒヤヒヤものだけど、こいつがバカなのか単調な振り下ろし攻撃しかしてこないのが救いになっている。
 よし、ここまで注意を引き付ければ...
「君!今だよ!!私のことはいいから逃げて!!」
「え、えっと...」
「早く!!!」
 いくら単調とはいえ、私も体力は無限じゃないんだ。早く、早く逃げ...
「ごご、ごめんなさい!!!あ、あの、足が...ゆう、ゆうこと聞かなくて、それで......」
 な、なんだって...?あまりの恐怖で腰が抜けちゃったのか!!
「うっ?!」
 女の子の状態に気を取られた一瞬の隙を突かれ、重い拳が左肩に直撃し後方に吹っ飛ばされる。
「あ、ぐっ、ぐうう!!!」
 い、痛い......肩は外...れてはないけど、打撲にはなったかも。や、やばい......
 痛みに耐えながらなんとか立ち上がるも、もうさっきのように俊敏に動く事はできない。くっ、ここまでなの......?

「あ、あの!ここ、これを!!」
「...え?」
 突然飛んできた物体をなんとかキャッチする。手を広げてみると、そこにはひし形...いや、よく見ると八面体の透明な結晶があった。
 これは一体......?
「そ、それ!それ使ってください!!」
「こ、これをどうやって?!!」
 化け物の攻撃を避けて女の子に尋ねる。
「そ...その、結晶に力を込めると、その...あの......戦う力が得られるって...わ、私もよく知らないですけど......」
 戦う力?!よく知らないのに渡してきたの?!!こんな得体の知れないものに頼れと!
 ...ううー、でも今はこれに頼るしかない!
 結晶を握りしめ、精一杯力を込める。
 お願い、奇跡でも何でもいい。私に力を貸して!この状況を打破できる力を......!!
 願い、目を閉じた瞬間だった。まばゆい光が私をそっと包み込み、力がみなぎっていくのを感じ始める。
 うそ、本当に......?
 光が離散したのと同時に瞼を上げて見ると、右手には真っ白に光り輝く剣が握られていた。
 す、凄い。ゲームとかアニメとかでしか見たことないような剣が目の前にある...!
「なんだか物語の主人公になったような気分......」
 不思議な感じだけど、これなら...ひょっとして倒せるかも!
 引きずる恐怖と興奮を練り混ぜながら、スッと剣を構える。
「よし、かかってこい!」
 先ほどの光で怯んでいた化け物はやっと我に帰ると、思い出したかのように私へ拳を繰り出す。
 それを見た私は左方へそれ、距離を詰めるために地面を蹴っ...
「って、うわぁ!!」
 そんなに強く蹴ったつもりはないのに、体は大きく前進して派手にすっ転ぶ。
 いたた、勢い余って通り過ぎちゃったよ...どういうわけか、身体能力もかなり上昇しているんだね、これ。でもまあ、戦うならそっちのが有り難いかッ!
 態勢を立て直し、今度はきちんと加減して地面を踏み込むと一気に懐まで潜り込む。
 あまりのスピードにギョッとしたのか、化け物は一瞬仰け反ると慌てて拳を振り下ろす。
 ビュッと風を切る音が耳に入った瞬間、左手を振り上げて相手の腕を突き上げるとガラ空きになった胴体目掛けて剣を振りかざした。
「うおおおおおお!!!!!」
 力いっぱい振り切った剣は化け物の体をズタズタに引き裂き...光の粒子と化して消滅させた。

「た、倒した...?」
 自分でやったことのはずなのに、なんか...実感がわかない。でも...私がやったんだよね?私が......
「あ、そうだった」
 いけないいけない、あまりの事に忘れるところだった。
 はっと気がついた私は女の子の前まで歩み寄ると、声をかける。
「大丈夫?ケガはない?」
「は、はい。あ...ありがとうございます......」
「どういたしまして」
 私がニコッと微笑むと、女の子もまた涙を浮かべたまま少し笑ってくれた。
「そうだ。まだ名前を教えて貰ってなかった。良かったら聞かせてくれない?」
「名前...ですか?」
「うん。名前」
 女の子は何故か少し考える素振りを見せたあと、口を開く。
「...ミナノ、です」
「ミナノ...ちゃん?」
「は、はい......」
「そっか。私は桜衣っていうんだ。白星桜衣。よろしくね」
「桜衣、さん。で、ですね。よ...よろしくお願い...します」
 互いに名前を覚えると、そっと手を差し伸べ......ぎゅっと握りしめた。


第2話「俺たちも戦う」
へつづく。
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