色のない世界 第2話 「俺たちも戦う」


「どりゃああああ!!!」
 ずっと突き刺した剣先をまっすぐ振り上げる。
「はあ、はあ...」
 ズシャアという音と共に肉体が飛び散ると、光の粒となって消えてゆく。
「やりましたね!」
「うん!」
 ミナノちゃんの笑顔を見て、私も笑う。
「それじゃあ誰かに見つかる前に帰ろっか」
「は、はい!」
 光り輝く剣をスッと消滅させると、ミナノちゃんと一緒に帰宅路につく。

 あの初めての戦いから一週間が経った。あれから2、3度化け物と戦ったけど、今だに恐怖心は収まらない。
 でも私がやらなきゃ誰かが犠牲になってしまうなら、頑張らなくちゃいけない...という心意気だけで今日もなんとか無事に終わった。
「ミナノちゃん、今日の晩御飯は何がいい?」
「じゃ、じゃあ、オムライスってやつがいいです!」
「オムライスね。分かったよ」
 私が提案を飲んだのを聞いたミナノちゃんは手を広げて「わーい」と喜ぶ。
 初めて会った時は気にするまもなかったけど、ミナノちゃんって本当にちっちゃくて可愛い。こんなに可愛いなら両親にもさぞ可愛がられているんだろうな...と思っていたのだけど、話を聞いてみたら全くその逆だった事には驚いた。
 名前はミナノ。私と同じ青い瞳に紫色の長い髪の毛を頭の上で結んでポニテにしている女の子。服はフリルのついた可愛らしいワンピースで、歳は分からないけど、大体8、9歳くらい。肝心の両親はというと、分からない...らしい。
 分からないのは両親だけじゃなかった。自分の名前以外全く何も覚えてなく、最後に目覚めてから覚えているのは、見覚えのない施設から無我夢中で逃げてきたという事だけ。
 その後はひたすらに走って、気がついたら化け物に襲われて...そこを私が助けたみたい。
 考えれば考えるほど分からない事だらけだけど、1つ言えるのは今のミナノちゃんには身寄りもいなければ住むところも食べるものもないということ。
 それを聞いた私は放っておけなくて、あの日からミナノちゃんを私の家に泊まらせている。でも一人でいるのは危ないから、私が学校にいる間は保健室の先生に預かってて貰っているけどね。
「ありゃ。考え事してたら着いたね」
「か、考え...ごと、ですか?」
「うん、ちょっとね。さあて!作るぞー!」
 家に帰った私は服の袖をまくると、早速晩御飯の準備に取り掛かった。


 翌朝。
 いつも通り重い瞼を気合いで持ち上げてミナノちゃんと共に学校へ登校し保健室に預けると、電池切れを起こしたロボットのようにガクンと椅子の上で動かなくなる。
「お、どうしたんだ?燃料切れか?」
「...眠たいんだよ」
「なんだなんだ?夜更かしでもしてたのか?」
「あはは...考え事をしてたらちょっとね」
 近々と顔を近づけてくる結祐に対して笑ってごまかす。
 このところは考え事だらけで、ろくに眠れていない。昨晩だって、この先どうなるかも分からない明日に頭を抱えていたくらいだから。
「きちんと睡眠は取らねえとダメだぞ?」
「わ、分かってるよ...」
「本当に分かっているのかな?」
「お、勇気じゃんか。おはよう」
「おはよう。結祐」
 そう言って不意に会話に割り込んできた彼は、持ってきた椅子の上に腰掛ける。
 彼の名前は佐々倉勇気。私たちと同じクラスメイトで、結祐のお友達。今は色が抜け落ちているけど、いつも緑色のジャージを上に着ている男の子だ。
「白星さん、睡眠はとても大切だよ。特に君のような年頃の女の子には」
「分かってはいるんだけど、つい...ね」
「本当に分かってんのかー?怪しさしかないな」
「大丈夫だって!今日からちゃんと寝るから!」
「ふーん...」
「ほらほら!もうそろそろ朝礼が始まっちゃうよ!席に戻って戻って!」
 目を細めて如何にも信じないという顔を見せる結祐を無理矢理席に戻すと、1限目の支度を始める。
 2人には悪いけど、決して言うわけにはいかないんだ。私が戦っているなんてこと、絶対に...

「なあ、このあと暇なら近くのショッピングモールに遊びに行かねえか?」
「ショッピングモール?」
「ああ。最近のお前ってすぐ帰ってしまうだろ?だから久しぶりに」
「うーん...」
 夕焼けで真っ赤に染まる放課後の教室で、日直の仕事をこなしていたら結祐が突然遊びの誘いをかけてきた。
 ショッピングモール...かぁ。以前までならすぐに首を縦に振ったけど、今は...
 誘いを諦めて断りの返事をしようとした時、がらがらと教室のドアが開きミナノちゃんが現れた。
 想定外の出現に、慌てて声を上げる。
「み、ミナノちゃん?!ななっ、なんで!」
「あ...あの......来るのが遅かったので、よ、様子を見に...」
「ん?なんだこの子は。桜衣の知り合いか?」
「えっとー、そのー...」
 やばい。説明が面倒な事になるから誰にも話さず隠していたのに、まさかこんな所でバレてしまうなんて...!
「はあ...仕方ない、結祐だけには言わなきゃいけないか」
「言うって...何を?」
「あのね、実はそこにいる女の子は......」
「女の子は?」
「わ、私の従姉妹なんだ!」
「...は?」
 ごめん、結祐。やっぱり真実を言うわけにはいかない。咄嗟に出た嘘だけど、許して。
「従姉妹...ねえ。まあいいや」
 特に興味もなさそうに頷く結祐を見て、ほっと安心する。
「で?さっきの質問の返事をまだ聞いてないんだが。行くのか?ショッピングモール」
「...あ」
 すっかり忘れてた。さっさと返事をしないと...
 行かないって返事を返そうするけど、つい横目でミナノちゃんを見て...後悔しながら「行くよ」と返事を返した。
 なんでミナノちゃんの方を見ちゃったかなー、私。そんな好奇心の目で見つめられたら断れないじゃん......
 数秒前の自分を殴りたい衝動を抑えながら、集合時間と場所を決めた私達はそれぞれ一度帰宅した。


「お、来たな?」
「おまたせ、結祐。待っちゃった?」
「いや、全然。さてと、あんまりのんびりできるわけでもないし、早速行こうぜ。あ、その子の紹介も歩きながらよろしくな」
「分かった分かった」
 私とミナノちゃんは待ち合わせの場所に着くと、結祐先導の元エスカレーターに乗り込む。
 店内に流れる最近流行りなのであろうポップスの曲を適当に聴き流しながら、味気のなくなった店々を転々と物色する。
 基本的には結祐が入りたいお店...雑貨屋とかゲームショップ、はたまたゲームセンター等に寄るのだけど、今日は何故か可愛らしい服が並んだお店の前に到着した。
 服屋?しかも女性物の?普段なら絶対に寄らないようなところなのに、どういうつもりなのだろうか。
 店の前で立ったまま動かない結祐に聞こうとして口を開く。
「ねえ、どうして服屋?こんなところ、いつもなら来ないじゃん」
「そうだな...でもまあ、たまにはと思ってよ」
「たまには...?」
「ああ、そうだ。お前、いつもその服しか着てないだろ?こういうアパレル系のお店にも来てなさそうだし、それならってね」
「...それ、佐々倉君の入れ知恵だったりしない?」
「......バレたか」
 そんなことだろうと思ったけど、やっぱりそうだったか。結祐が自分から気遣って行動するなんて事ないもんね。他の人ならともかく、私には。
 苦笑いする結祐の手を掴んで強引に引っ張ると、お店の前から離れていく。
「おおい!いいのか?」
「いいの!別に服には興味ないし、必要最低限の服さえあれば十分でしょ!」
「本当に女の子から出たとは思えない台詞だな...」
 結祐の何気ない一言が、私の心に突き刺さる。う、うぐ...別に女の子らしくなくたっていいじゃん...

 不服そうに頬を膨らませて長い通路を歩いていると、突如背後から大衆の悲鳴が鳴り響く。
「な、なんだ?!」
 突然の事に動揺する結祐。この感じ、まさか...
 ふとミナノちゃんの方に振り返ると、眉をひそめたミナノちゃんが私の名前を呼ぶ。
「桜衣さん、行きましょう」
「うん。結祐はこの施設から急いで出て!」
「お、おい!行くってどこに...!」
 伸びて来た結祐の手を振り払い地を蹴ると、ミナノちゃんと共に走り出す。
 逃げ惑う群衆の波を逆走し、ビリビリと痺れる空気が次第に広がっていくのを肌で感じ取る。
「いた!あれだ!!」
 真っ白な化け物が壁に張り付いているのを確認すると、十分に距離を取った場所で急ブレーキをかける。
 あの形...どうやら今回は蜘蛛型の化け物みたいだね。周囲には蜘蛛の糸で捕まってしまった人達が泣き叫んでる。早く助けないと!
 私はズボンのポケットから真っ白な結晶を取り出すと、その結晶に心を込める。
 すると結晶が眩く光り出し体を包み込み、ブーツ、ホットパンツ、シャツ、ロングパーカー、マフラー...と、次々に身につけている衣服に色をつけていく。
 やがて光が収まり服が桜色に染まったのを確認すると、最後に光の剣を右手に握りしめて変化完了の合図を示した。
「もう数回やった事だけど、やっぱりこれ...目立つね」
 この世界には異端と言っても過言ではない色付きの服を見て、ちょっとだけ恥ずかしくなる。

 ミナノちゃんと初めて会った時に受け取った謎の結晶。名前は心結晶といい、自身の身体能力の強化、また心を武器として具現化させ化け物達と戦う事ができる。
 どういう理屈かは分からないけど、この心結晶を使用すると服に色がつく。つくというよりは、元に戻るっていう表現のが正しいかな。
 そんな凄い代物であるものの、ミナノちゃんが施設から逃げ出す際勝手に持ち出した物のようで、私が貰ったものを除いてもあと2つしかないみたい。まあ...貴重ってことだね。
「おっと...いけないいけない。また考え事をしてたよ。ミナノちゃんは下がってて!」
「は、はい!が...頑張ってください!」
 私は剣を再び強く握り締めると、大きく飛び上がる。
 空中で剣を光らせた私に気がついた化け物は向きを変えてお尻をこちらに向けると、勢いよく糸を噴射してきた。
「それで捕まえるつもりなんだろうけど、残念ながらあなたがそうしてくることは想定済みだよ!」
 飛んでくる糸から目を離さないようにしながら半回転し見ている景色を反転させると、天井を蹴り飛ばして糸を避ける。
 流石に2発目をすぐには撃ってこれないはず。
「これでフィニッシュだ!」
 そう声を上げて剣先を突き刺そうとした瞬間だった。右足にべったりとした感触が伝わってきたかと思うと、視界が右方向にスライドして思い切り壁に叩きつけられる。
「かはっ!」
 いった...突然何なの?!
 鈍くのしかかる背中の痛みを堪えながら目を開くと、自分の右足が糸で壁にくくりつけられていた。
 どういうこと?この糸はどこから...?!
 宙づりになった状態で首を振ると、左方に今真下にいる化け物と同じシルエットが映る。
「まさかもう一体いたなんて...」
 このままじゃまずい。早くこの糸を取らないと!
 歯を食いしばりながら上半身を起こして糸を切り取ろうとするが、ねっとりと絡みついた糸は全く切れる気配を見せない。
「くそっ、この...うぐう?!!」
 糸を切ろうとするのに夢中で周りの事が頭から離れていた隙を突かれて、上半身にも糸を貼り付けられてしまう。
 これじゃあ身動き1つ取れない...!
「あ、桜衣さん!!!」
「だめ!来ないで!!」
「で、でも!」
「ミナノちゃんは逃げて!あなただけでも...!」
 私の元へと駆け寄ろうとするミナノちゃんを近づかせないために、何度も何度も叫ぶ。
 これは私の失態。その失態にミナノちゃんまで付き合う必要なんてない...!
「...まだまだこれからだって時だったのに......どじっちゃったね。ここまでか...」
 目と鼻の先まで近づいた化け物から逃げるように目を閉じる。
 色を抜かれたらどうなるんだろうなあ。意識だけはあるのに体が動かないってどんな感覚なんだろう。そもそも感覚とかってあるのかな?分からない、分からないけど、きっとこれからは私も専用の施設の人達と一緒に......

「桜衣ーーー!!!」
「?!」
 この声は...結祐?!
 はっと気がついて瞳を開くと、自分の状態に気がついて更に驚く。
 瞼が...開く。それに、右手も左足もまだ動かせる。もう色を奪い取るには十分な時間が経っているはずなのに。
「...まさか!」
 この心結晶、色を抜かれるのを防いでくれてる...?!いやいや、今はそんな事に驚いてる場合じゃない!
「結祐、逃げて!!」
 色を奪い取れないと悟った化け物達は、くるりと背を向けて標的を結祐に向け直す。
 ああ、まずい!私は問題なくても、結祐は...!
「よし!」
 なんて私の心配をよそに結祐はにっと笑うと、近くにいたミナノちゃんをひょいと抱えて走りながら話しかける。
「なあ、桜衣が懐から出していた結晶みたいなやつってまだあるか?!」
「あ、ああ、あるにはあり、ありますけど...」
「...良かった。それ、あと何個残ってる?」
「ふ、2つです...」
「ちょうどぴったりじゃねえか。それ、悪いんだけど2つともくれないか?」
「え、でも...」
「それがあれば桜衣を助けられるかも知れないんだ!だから頼む...!」
 私を助けられるかも、という言葉にぴくっと小さく反応したミナノちゃんは、結祐に降ろされると透明な結晶を2つほど取り出して結祐に手渡した。
 結祐は最後の結晶をしっかりと両手で受け取ると、その片方を大きく振りかぶってあられもない方向にぶん投げる。
 えっと思うのもつかの間、柱の陰から出てきた人物が結晶をがっちりとキャッチしたのを見て、その人物に驚きの声を上げる。
「佐々倉君?!」
「やあ、また会ったね」
 呑気に返事を返しつつ結晶をまじまじと見つめながら首をかしげる。そんな佐々倉君に対して、結祐はいつもより強気な声で呼びかける。
「勇気、お前も見てたんだろ!なら俺と一緒に戦ってくれ!」
「...これで?」
「そうだ!お前、小さい頃からずっと言ってただろ?ヒーローが好きだ。いつか自分もテレビの中のヒーローのようになりたいって!!それが今だ!!」
「......なるほどね。その話...乗った!!」
 佐々倉君は結晶を握りしめた手を天高く突き上げると、結祐と声を揃えて叫ぶ。
「いくぞ!!!」
 互いに握りしめた拳から光が漏れ出すと、次々に色が着色されていく。
 結祐はスニーカー、ズボン、グローブに土色が、半袖のパーカーにはオレンジ色が着色され、首から下げたゴーグルが黒光りする。佐々倉君は見覚えのある深緑色にジャージが染まっていく。
 衣服に色が完全に浸透しきると、結祐の両手には鋼色の二丁拳銃が、佐々倉君の手には巨大な大剣が出現し、2人ともそれぞれの獲物をしっかりと握ると変化完了と言わんばかりに武器を自身の前で構えた。
「橙色と緑色の心結晶...」
 私の白色とは違う。あれが、あの2人の心の色と武器...!
「おお...本当にヒーローになったみたいだね」
「ああ!...って、浮かれてる場合じゃねえな。まずは桜衣の救出だ!」
「そうだね。サポートするから、助けに行くのはよろしく!」
「おう!!」
 結祐と佐々倉君は小さく頷きあうと、私の方に向かって一直線に走り出す。
 当然それを黙って見逃すわけもなく、化け物達は溜め込んでいた糸をこれでもかというくらい撒き散らし始める。
「おっと、その糸はいただけないね!!」
 佐々倉君は走っていた足を止めて剣を大きく横にスイングすると、そのまま勢いをつけてギュルルルと回転し始め、巻きつこうとした糸を次々に斬りとばす。
 やがて飛んできた糸が打ち止めになったのを見計らうと、回転の勢いを徐々に殺しつつ大きく縦に振りかぶってそのまま地面に叩きつけた。
 どうして何もないところに...?と思ったけど、その答えはすぐに分かった。
「倍加!!」
 振りかざされ地面に刺さっていた大剣がその声を合図に、みるみる大きくなっていく。
「ナイスだ勇気!」
 それを待っていたのか、結祐はぐんぐん伸びていく大剣の刀身に飛び乗ると、真っ直ぐ私の元へと辿り着いた。
「待たせたな、桜衣」
「ゆ、結祐...」
「もしかして惚れちまったか?」
「いや、それはない」
「そ、そうか...」
 何故か私の返答にがっくりと肩を落とすと、一度右手から拳銃を放し手のひらを私に向ける。
「失敗したらごめんな」
「え?ちょ、ちょっと何する気?!」
「こうするんだよ!!」
 かざした手からふわりと頬を撫でる風が吹き出すと、私にまとわりついていた糸をかまいたちの如く引きちぎっていく。
「おわっ!!」
 やがて全ての糸が取り除かれて体が自由を取り戻したのはいいものの、壁に貼り付けられていたのを忘れていた私は顔面から鋼鉄の刀身に落下した。
「大丈夫か?!」
「う、うん...」
 心配そうに見つめる結祐に本当に大丈夫だからと伝えて起き上がる。
「ようし、戻すよ!」
 私が無事に糸から抜け出せたのを確認した佐々倉君は、ゆっくりと大剣のサイズを縮めていく。
 その間化け物達はチャージし終わった糸を私と結祐目掛けて噴射してきたが、それを見逃さなかった結祐は風を纏わせた銃弾を放ち糸を細切れにする。
「ふう、危ねえ危ねえ。ありがとな、勇気」
「私からも...ありがとう。それと、結祐もね」
「ふふっ...どういたしまして」
 佐々倉君の元まで縮み切った剣から飛び降りて2人に礼を言うと、2人とも照れ臭そうに笑う。

 さてとと...
「ここからが問題だね。あの2体をどうやって片付けるのか...」
「ん?そんなの簡単だろ。俺の風と拳銃で糸は相殺させるから、その隙に桜衣と勇気で攻めてこいよ」
「...すまないが、それは無理...みたいだ」
「え?...っておい?!」
 無理という言葉を言い放った瞬間、佐々倉君の衣服から色が抜け落ち、膝をつき始める。
「え、今度はどういうこと...?!」
「分からねえけど、様子を見るにもう戦えそうにねえぞ?!」
「...さっき使った心象能力のせい、だと思います」
 浅い呼吸を繰り返す佐々倉君の背後からミナノちゃんが暗い顔で歩み寄ってくると、続けて口を開いた。
「その心結晶には、心象武器の他にその人固有の心象能力というものも備わっています」
「心象能力?」
「はい...先程のように剣を大きくしたり風を操ったりする事を、そう...言います」
「それを使ったら...こうなるのか?」
 震える声で結祐はそう尋ねると、ミナノちゃんは首を縦に振る。
 そんな...ってことは、心象能力ってやつは消耗が激しい危ない橋みたいなものってこと?それなら結祐もさっき使ったから、もう...
 ふと横を見ると結祐は険しい顔で下を見つめている。それじゃあ結祐もそろそろ...と思った時、険しい顔のまま結祐が口を開いた。
「...桜衣、せっかく助けに入ったのに悪いな」
「いいよ、気にしないで。あとは私がやるから」
「すまねえ...でもせめて結晶の効果が切れる前に、お前の力になりたい。何かないか?!」
「何かって言われても...」
 と言いかけた時、脳裏の片隅に置いときっぱなしだったものをふと思い出す。
 そうだ、よくよく考えてみれば私にも能力はあった。どう使ったらいいか分からなかったから、ないものとして扱っていたけど今なら...!
 右手を持ち上げて剣を結祐の目の前に突き出すと、ゆっくりと口を開く。
「結祐、この剣を握っている手の上にさっきの風を起こして」
「...は?そんなことしたらお前の手が傷だらけになるぞ」
「それでもいい。早くしないとあの化け物達がまた糸を吐き出してきちゃう。だから早く!!」
「...あー!もう!!どうなっても知らねえぞ!!!」
 髪の毛をくしゃくしゃとかきむしって覚悟を決めた結祐は私の手の上に手のひらを重ねると、思い切り風を巻き起こす。
 きっと威力はかなり抑えていてくれてるはずだけど、それでも悲鳴を上げたくなるほどの痛みがドシドシと突き刺さってきて、肌の皮が徐々に血しぶきを上げながら剥がれていく。
「ま、まずい!糸が...!」
 襲いくる激痛と粘着質の糸が私に喰らい付こうとした瞬間、私は目をカッと開き叫んだ。
「リンク!!!」
 その声を合図に、一瞬でバラバラに吹き飛ぶ糸たち。
 初めてだったから時間がかかってしまったけど、なんとか間に合った。真っ赤な手をゆっくりと持ち上げ剣先を化け物達に向けると、化け物達は本能で何かを感知したのか後ろに後ずさりし始める。
 これが私の能力。手で触れたものと繋がり、リンクする力。これであいつらを...
「倒す!!」
 電光石火のスピードで化け物達の前まで駆け出し懐まで入ると、片方に対して風を纏った剣を斜めに振り上げる。
 一瞬の出来事に、何もできずに真っ二つに引き裂かれると、そのまま動かなくなる。
「このままもう一体も!!」
 自身の右足を軸にぐるりと一回転すると、すぐ横にいたもう一体目掛けて剣を振りかざす。
 すると最後の抵抗と言わんばかりにゼロ距離で糸を噴射してきたが、その中を強引に突き進み、勢いのままにもう一体もズタズタに引き裂いた。
「はあ、はあ...やっと終わった......」
 カランっと剣を手から零して、私も流れるように地面に倒れこむ。
「おい、大丈夫か?!」
「...うん。少し疲れただけだよ」
「桜衣さん!!」
「んぷっ?!」
 ドタバタと足音を立てて私の前まで走ってきたミナノちゃんが私に抱きついてきて思わず変な声が出る。
「心配かけてごめんね...」
 私の胸の中で泣き出すミナノちゃんを抱きしめると、薄っすらと笑う結祐と佐々倉君に笑顔を返した。


「ひとまずミナノも落ち着いたみたいだし、お前はその手を医者に見せに行ってこいよ。俺らはここで待ってるから」
「分かった。2人とも、少しの間ミナノちゃんをよろしくね」
 そう言うと寝息をたてて壁に寄りかかっているミナノちゃんを置いて、ショッピングモールの外に出る。
 外では慌ただしく動く大人達が、怪我をした人や現場の状況整理をするために右往左往していた。その光景を見て目を伏せる。
 分かってる。どれだけ頑張ったって、私1人が救える人の数には限りがあるなんてこと。それでも...割り切れないんだ。私には...
「あなた、もしかして戦ったの?」
「...え?」
 突拍子のない言葉に驚いて顔を上げると、そこには足元まで伸びた黒いローブを羽織った人が立っていた。
 顔は目元まで覆われたフードのせいで見えないけど、声や背丈から察するに私と同い年くらいの女の子...?
「私に何か用...かな?悪いんだけど、私ちょっと急いでて...」
「......もう戦うな」
「...へ?それってどういう...」
 っと聞こうとしたが、瞬きをした瞬間にどこかへと消えてしまった。
 今の女の子は一体...それに戦うなって......?
 わけがわからないまま、ショッピングモールが照らす夜の道に1人取り残された...


第3話「黒猫」
へつづく。
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今日だったのか....

色のない世界 第1話「奪われた色」

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